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強調されたのは、主として市場経済を救うという道であり、市場経済にとって代わろうとする方向ではなかった。 アメリカ合衆国は社会改革を常に開拓者が宗教とひまし油を飲み込んだのと同じやり方で飲み下した突発的に、大量に、そしてその必要性が耐えられないほど大きくなってから長い時間をおいた後に」一九三六年、二期目の大統領候補の指名受託演説でルーズベルトはこう言った。
「政府は過ちを犯し、大統領も間違うことがあります。 しかし、かの不滅のダンテによれば、神の裁きにおいては、冷血の罪と暖かい心の罪は異なる計りにかけられるといいます。
無関心の氷に閉ざされた政府の絶えざる無視よりも、慈善の精神に生きる政府のときおり犯す過ちの方がずっとましではありませんか」。 一九四五年四月、空前絶後の四期目を始めて間もなくのこと(一九五一年に確定した憲法修しかしながら、ルーズベルトのニューディールは、ワシントンに何千人もの暖かい心の罪献身的で有能な人材を惹きつけた。

モーリー、タグウェル、イッキーズ、ホプキンズ、二人のモーガン、リリエンソール、ヒッコック、その他無数の人材が、全国各地から職をなげうってワシントンに駆けつけた。 彼らの意図は崇高で誠実だった。
彼らは次から次へと訪れる緊急事態に直面して、人知の限りを尽くし、信じられないほどの創造力を発揮した。 ルーズベルト政権に参加したほとんどの人間は、何か個人の利害をはるかに超える大きな建設的な事業のために共に働いているという熱気と使命感に衝き動かされていた。
ニューディールのアメリカは、同胞のため善き目的のために、私を捨て寝食を忘れて働く有能な人材と、彼らに活躍の場を与えることができる柔軟な社会構造とがアメリカにあることを証明したのであ正第二二条によって、以後大統領の三選は禁止された)、ヨーロッパで戦争が終結するわずか数週間前にフランクリン・デラノ・ルーズベルトはウォーム・スプリングの保養地で世を去った。 そのときには既に、来たるべき戦後の世界経済の基本構想が、イギリスのジョン・メイナード・ケインズとアメリカ財務省のハリー・デクスター・ホワイトとの間で話し合われていた。
やがてアメリカは一九二○年代と三○年代の過ちに学び、ドルを基軸通貨として、多国間調整を原則とする国際貿易と国際金融制度の後見人として、世界経済を指導する立場を引き受ける。 それを成し遂げたのも、結局は二ユーディールの精神であったことは、深くわれわれの記憶にとどめておかなければならないだろう。
大不況の経済学第五章第二次大戦後の国際通貨体制について協議するホワイト(左)とケインズ(右)独占と過少消費制度学派一九二○’三○年代のアメリカ経済学界には、正統派(新古典派)自由主義経済学、ソースティン・ヴェブレンの流れをくむ制度学派、および、ウェスリー・ミッチェル以来の景気循環論者の三つの流れが混在していた。 しかし、今日もそうであるように、アメリカの経済学者は特定の学派や学説にこだわり続けることは比較的少なく、状況の変化に対応して柔軟な思考方法をとるプラグマチズムを備えていた。
また、大不況の診断に関しても多くの場合経済学者は折衷的にならざるをえず、これらの学派の相違も多分に「力点の置き方の違い」(ゴットフリード・ハーバラー『景気循環論』)に過ぎないものであった。 二のうち、制度学派は、社会経済制度の存在理由を社会学的、文化的、心理的諸要因の中にも求め、人間とそれをとりまく社会環境とは、一片の形式的分析ではとらえきれない複雑な関係にあるとの根本認識をもっていた。
制度と社会の相互作用を分析の正面に据えた彼らの議論は、制度が社会の発展や市場機構の足かせになる側面を強調し、現状批判的性格を強くしていた。 彼らは、新古典派が一九世紀的資本主義の幻想からしばしば主張するところとは異なって、自由市場経済は「均衡」へ向けての自然な安定性を備えているのではない、むしろ、諸要因のからまり合いの中から出現する制度は、国民の経済的厚生の観点からすれば有害で不都合なものも多いと考えた。
彼らの目には、大不況もいくつかの制度的硬直性が発生の原因となり、あるいはそれからの回復を大幅に遅らせる原因となったと映った。 ソースティン・ヴェブレンは彼の最後の大作『アメリカ資本主義批判』(一九二三年)で、アメリカの企業は、「不在所有者」の提供する資本に経常的な収益率を保証するだけの目的のために、古典的な価格競争を販売競争にすりかえ、低賃金と不断の失業と、過少生産の制度を作り上げたと論じていた。
ヴェブレンの議論を延長すれば、やがてアメリカ経済は、消費が縮小し技術進歩が窒息して、長期的に衰退するはずであった。 しかし、このヴェブレンの社会批判は二○年代の繁栄の中で次第に忘れられていった。
じっさい、制度学派に属すると見られるコロンビア大学のレックスフォード・タグウェル(後に「ブレーン・トラスト」の一員を経てルーズベルトの内務次官補となる)にとっては、制度的障害と新時代の繁栄とをどう理論的に調和させるかが大きな課題となった。 彼は『成年期に入る産業』(一九二七年)で、二○年代の生産性の向上を認め、高賃金が高生産性をもたらしたこと、景気循環の知識と統計情報が発達したため経済の安定性が高まったことなどを評価した。

しかし、同時にタグウェルは、繁栄の中で企業が利潤を配当支払いではなく再投資に当てたため、中枢産業のほとんどで過剰設備が生じたこと、また、その設備を維持しようとして、大企業が独占力によって価格を高位に固定した一}とを批判した。 大不況に入ってからは、アドルフ・バーリとガーディナー・ミーンズが『近代株式会社と私有財産」(一九三三年)で、近代株式会社の所有と経営の分離を鮮明に実証したが、彼らは大不況について語ることはほとんどなかった。
さらに、一九三六年にはアーサー・バーンズが不況の原因についてタグウェルと同様の診断を下した。 『競争の衰退』でバーンズは、支配的企業は設備が「産出量に比べて過大」であったため、価格の引き下げに抵抗し、生産性の向上を賃金上昇にではなく利潤にとどめる戦略をとった。
バーンズはこれによって過剰投資と過少消費がもたらされたとした。 これら制度学派の議論は、大企業体制のもとで価格伸縮性が失われ、競争が計画化と協調にとって代わられた結果、企業の技術革新への意欲が失われ、過剰投資と、労働分配率の悪化による過少消費がもたらされ、そのことが三○年代の大不況につながったとする点で一致していた。
興味深いことに、大不況という状況の変化に、企業も労働組合もより大きな価格伸縮性を受け入れることによって対処すべきだと主張したのは、価格機構の働きに信頼をおく均衡論者ではなく、これらの制度学派の経済学者たちであった。 制度学派の考え方にはイギリスにも強力な賛同者がいた。
大不況のさなかにあって恐らく最も深い影響力をもったのは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの三六歳の気鋭の経済学者ライオネル・ロビンズの『大不況』(一九三四年)であっただろう。

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